大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)1122号 判決 1989年1月18日
第一〇九一号事件控訴人、第一一二二号事件被控訴人
(以下、「第一審被告」という。)
安住善太郎
右訴訟代理人弁護士
西村登
第一〇九一号事件被控訴人、第一一二二号事件控訴人
(以下、「第一審原告」という。)
安住澄子
右訴訟代理人弁護士
高村順久
同
清水敦
主文
一 原判決を取り消す。
二 第一審原、被告の共有にかかる別紙物件目録記載の建物について競売を命じ、その代金から競売費用を控除した金額の二分の一を第一審原告に交付する。
三 第一審原告の本訴請求のうち、右競売にかかる代金から競売費用を控除した金額の残余の二分の一の分割を求める部分を却下する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とする。
事実
第一 当事者の申立
一 第一審原告
1 原判決を取り消す。
2 第一審原、被告の共有にかかる別紙物件目録記載の建物(以下、「本件建物」という。)につき、その主たる建物を第一審原告に、付属建物を第一審被告に分割する。
3 予備的に、第一審被告は第一審原告に対し、本件建物の持分六分の一につき、第一審原告から相当の代償金の支払を受けるのと引換えに、所有権移転登記手続をせよ。
4 第一審被告の本件控訴を棄却する。
5 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。
二 第一審被告
1 原判決を取り消す。
2 第一審原告の請求を棄却する。
3 第一審原告の本件控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるからここにこれを引用する。
(原判決の訂正)
1 原判決三枚目表四行目の「二項」を削除する。
2 同裏一一行目の「(一)」及び同裏五行目から同四枚目五行目までを削除する。
(第一審原告の当審における主張)
一 本件建物は、第一審原、被告の父安住悦太郎が建築したものであるが、悦太郎死亡後、第一審原告の弟である第一審被告が他の相続財産と共にほしいまゝに自己名義に所有権移転登記を経由したため、これを知った第一審原告や母貞が相続分の回復を訴求し、その結果調停によりようやく第一審原告と母貞の各二分の一の共有となり、その旨の所有権移転登記が経由された。ところが、その後、貞が死亡して相続が開始し、貞の右二分の一の持分につき、第一審原、被告及び平尾千代子が法定相続により各三分の一宛の各六分の一の持分を取得しその旨の所有権移転登記を経由したが、右は遺産分割の協議によるものではない。したがって、本件建物について第一審原告が承認する第一審被告の権利は、右貞の遺産の法定相続分にすぎない。また、第一審原告は妹の平尾千代子から昭和六〇年五月三一日に本件建物の右六分の一の持分を譲り受けたが、右持分も法定相続分である。しかし、少なくとも第一審原告が調停によって取得していた二分の一の共有持分権については、同人固有の権利であるから、これらを合わせた持分六分の五の共有物分割請求が許されない理由はない。
二 本件建物を競売による代金分割により分割することは合理性、妥当性を欠くものである。
1 本件建物は、前記のとおり第一審原告六分の五、第一審被告六分の一の共有であり、その敷地は第一審原告三分の二、第一審被告の妻安住幸子三分の一の共有である。したがって、第三者が競売により建物を取得した場合、競落人は敷地利用権を取得することはできないし、賃借権、使用借権はいずれも成立しない。すなわち、競売により本件建物を取得する第三者はわざわざ収去を求められる物件を買取ることになるが、このことは競売という方法が実際上採り得ないことを意味する。
2 本件建物は現在空家であり既に老朽のため建物としての機能を喪失している。第一審原告はこれを大修繕又は改築しようとして本訴を提起したものであり、このような建物が競売の対象となり得る筈がない。
3 第三者による競落がないとすれば、第一審原、被告のうち本件建物を高く評価した者が競落することになるが、これでは姉弟のうち経済的に豊かな者が本件建物を取得できるというに等しく、その物の持つ合理的価額を持分に応じて分配せよとする民法二五八条の趣旨に全く反する。仮に第一審被告が競売の結果本件建物を取得した場合、前記敷地利用権の問題を生ずる。すなわち、敷地は形状からみて現物分割が可能であるところ、敷地の三分の一の持分権者幸子は三分の一に当たる部分に自己所有の建物を有している関係上、右現物分割により必然本件建物の敷地部分は第一審原告の単独所有となり、その結果、第一審被告は敷地利用権のない建物を取得することになるから、社会経済的にみて意味がない。
三 本件につき現物分割ができないとすれば、価額分割(価額賠償による分割)の方法によるのが最も合理的な解決方法である。
民法二五八条による分割の方法である現物分割の中には価額賠償も含まれ、本件は正に右方法によるのが相当な場合に当たると解すべきである。民法は共有関係において償金を払って持分を取得することを認めており(同法二五三条二項)、本件もこれを実質的に遺産分割としてとらえ、償金支払による分割の方法を採ることも可能である。
四 本件は、一度は家庭裁判所の遺産分割調停により母貞及び第一審原告が本件建物の共有持分各二分の一を取得した後、貞について更に相続が開始し、第一審原、被告が共有することになったものである。しかし母貞の有していた持分の相続そのものについては遺産分割の協議を経たものではなく、法定相続分により第一審被告が保存行為として代位して相続登記を経由したものにすぎない。右のとおり、母貞の遺産については共同相続人間の共有関係の解消であるから、共同相続人間の持分取得の経緯に関係なく、実質上遺産分割審判と考えるべきである(本件の場合、大阪家庭裁判所は「遺産は分割ずみ」という理解の下に遺産分割審判手続によることを拒否しているので、大阪高等裁判所において遺産分割手続をなすべきである)。
五 第一審被告は、「本件建物に愛着がある。」との一点の理由で、前記の如く老朽化した建物に対して、しかも持分六分の一程度で自ら居住の必要もないにも拘らず、第一審原告が本件建物の改築をすることを妨害しているものであり、権利の濫用である。
(第一審被告の当審における主張)
一 本件建物はもともと第一審被告の所有であった。すなわち、本件建物及びその敷地はもと第一審原、被告の亡父安住悦太郎の所有であったが、本件建物につき昭和三二年二月六日、同人の妻貞の弟の訴外谷川一馬名義で所有権保存登記を経由し、右敷地につき訴外尾崎武夫名義に所有権移転登記を経由した。その後昭和四二年八月五日悦太郎が死亡し、谷川らから右名義返還の申出があったので、母貞、第一審原、被告(長女、長男)及び次女の平尾千代子が協議した結果、本件建物の建築資金の約半分を第一審被告が出捐していること、家業を再建する者は第一審被告以外にはなく、安住家の総領として子孫繁栄に尽力してもらわなければならないこと、これに対し、第一審原告は分籍して分家の立場にあり、次女の千代子は平尾家に嫁いでいることを考慮し、本件建物及びその敷地を第一審被告の単独所有とすることに全員が同意し、第一審被告は尾崎に五十数万円、谷川に二〇万円を支払って、昭和四二年一〇月一三日、本件建物及びその敷地につき真正な登記名義の回復を原因として第一審被告に所有権移転登記が経由された。
ところが、第一審原告は、昭和四九年大阪家庭裁判所に被相続人悦太郎の遺産分割調停を申し立て(同庁昭和四九年(家イ)第四七六号)、昭和四九年四月一五日、大阪家庭裁判所で、本件建物及びその敷地を母貞と第一審原告の各二分の一の共有とし、第一審被告から各二分の一宛の所有権移転登記手続をする旨の調停が成立しそのとおり履行された。しかしながら、右調停は第一審被告が他の債権者からの追及を免がれるため第一審原告らとなした通謀虚偽表示であるので、第一審被告はその変更を求めて大阪家庭裁判所に遺産分割後の紛争に関する調停(同庁昭和六二年(家イ)第二八二三号)を申立てたが、不調となったので、昭和六三年三月一六日、第一審原告を被告として大阪地方裁判所に右調停調書の無効確認請求を提起した。
他方、母貞は、昭和五六年一一月二三日に死亡したが、昭和五九年五月中ころから第一審原告側において本件建物を取り壊してその跡地に娘婿の倉田裕和の家を新築する動きがあったので、第一審被告は昭和六〇年四月一一日、本件建物の貞の二分の一の持分につき相続人らの法定相続分どおりの持分移転登記を経由し、かつ同年五月四日、本件建物に対する第一審原告の占有を解き執行官保管とする旨の仮処分決定を得た。しかして、本件建物の貞の持分二分の一については、第一審原、被告及び平尾千代子が各三分の一、すなわち各六分の一の持分を取得したが、平尾千代子は同年五月三一日右持分を第一審原告に贈与(但し仮登記)した結果、本件建物につき、第一審原告が持分六分の五、第一審被告が持分六分の一各共有持分となった。
二 第一審原告は、本件建物の分割方法として、現物分割又は価額分割を主張し、競売による代金分割に反対している。したがって、本件建物の現物分割が不適当であり、また分割方法として価額賠償が許されないとすれば、第一審原告の請求を棄却すべきであるのに、原判決が競売による代金分割を命じたのは民訴法一八六条に違反する。
第三 証拠関係<省略>
理由
一本件訴の適法性について
1 <証拠>を総合すると、次の各事実が認められる。第一審被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分はにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 本件建物はもと第一審原、被告の亡父安住悦太郎が昭和二七年ころ建築してこれを所有していたが、昭和三二年二月六日、便宜上同人の妻安住貞の弟の訴外谷川一馬名義で所有権保存登記が経由された。
(二) 本件建物の主たる建物の敷地である箕面市半町四丁目五六四番の一宅地240.61平方メートル(以下、「五六四番の一の土地」という。)、同市半町四丁目五六二番の二、畑(昭和五七年八月九日公衆用道路に地目変更)三三平方メートル(以下、「五六二番の二の土地」という。)、同市半町四丁目五六四番の四宅地86.55平方メートル(以下、「五六四番の四の土地」という。)及び同市半町四丁目五六四番の五宅地32.13平方メートル(以下「五六四番の五の土地」という。)は、いずれも安住悦太郎の所有であったが、五六二番の二の土地以外はいずれも便宜上他人の所有名義で登記が経由されていた。
(三) 昭和四二年八月五日、安住悦太郎が死亡し、妻貞、長女第一審原告、長男第一審被告及び次女平尾千代子が相続によりその権利義務を承継した。
(四) 昭和四二年一〇月一三日付をもって、本件建物の主たる建物の敷地の五六四番の一の土地、同番の四の土地及び同番の五の土地につき、他人名義から真正なる登記名義の回復を原因として、第一審被告名義に所有権移転登記が経由された。
(五) 昭和四九年ころ、第一審原告は、その余の相続人三名を相手方として大阪家庭裁判所に対し被相続人安住悦太郎の遺産分割の調停を申し立て(同庁昭和四九年(家イ)第四七六号)、同年四月一五日次のとおり調停が成立した。
(イ) 本件建物、五六二番の二、五六四番の一、四及び五の各土地が被相続人安住悦太郎の遺産であることを認める。
(ロ) 申立人第一審原告及び相手方貞は、本件建物及び五六二番の二、五六四番の一、五の土地の各二分の一の持分を取得する。
(ハ) 相手方第一審被告は五六四番の四の土地を取得する。
(ニ) 相手方平尾千代子の取得分は零
そして、右調停に基づき、本件建物及び五六四番の一、五の各土地につき昭和五〇年一一月二七日付をもって右調停を原因として第一審原告及び貞の両名の各二分の一の所有権移転登記が経由されたが、五六二番の二の土地については調停条項不備のため右登記がなされず、昭和五八年一月二六日付をもって昭和四二年八月五日相続を原因とする第一審原、被告及び平尾千代子の各三分の一の所有権移転登記が経由された。
(六) 他方、母安住貞は昭和五六年一一月二三日死亡し、第一審原、被告及び平尾千代子が相続によりその権利義務を承継した。
(七) しかして、五六四番の一、五の各土地の貞の二分の一の持分につき昭和五七年七月一九日付をもって昭和五六年一一月二三日相続を原因として第一審原、被告及び平尾千代子に対し各六分の一の所有権移転登記が経由され、本件建物の貞の二分の一の持分につき、昭和六〇年四月一一日付をもって昭和五六年一一月二三日相続を原因として第一審原、被告及び平尾千代子に対し各六分の一の所有権移転登記が経由された。
(八) その後、五六四番の一、五の各土地の第一審被告の各六分の一の持分については、昭和五七年七月一九日付をもって同日贈与を原因として第一審被告の妻安住幸子に移転登記が経由され、平尾千代子の各六分の一の持分については昭和五八年一月二六日付をもって同日贈与を原因として安住幸子に移転登記が経由され、五六二番の二の土地の第一審被告及び平尾千代子の各三分の一の持分については、昭和五八年一月二六日付をもって同日贈与を原因として安住幸子に移転登記が経由され、本件建物の平尾千代子の六分の一の持分については昭和六〇年六月六日付をもって同年五月三一日贈与を原因として第一審原告に持分移転の仮登記が経由され、その結果、本件建物については、第一審原、被告間において第一審原告が六分の五、第一審被告が六分の一の各持分を有することになった(この点については当事者間に争いがない。)。
(九) 第一審被告は、昭和六〇年五月四日、第一審原告に対し本件建物につき現状維持の仮処分を得て執行し、他方、第一審原告は同年六月二八日本件訴を提起したが、右訴訟係属中、第一審被告は大阪家庭裁判所に遺産分割後の紛争に関する調停(同庁昭和六二年(家イ)第二八二三号)を申立てたが不調となったので、昭和六三年三月一六日、第一審原告を被告として大阪地方裁判所に前記調停調書が第一審原、被告らの通謀虚偽表示によることを理由としてその無効確認を求める訴訟を提起し現在係属中である。
2 第一審被告は、前記調停が通謀虚偽表示である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用することができない。
3 右1の認定事実によれば、本件建物について、遺産分割の調停により第一審原告と母貞の各二分の一の持分と定められたものであるところ、右調停によって設定された共有関係は共同相続の開始を直接の原因とする従前の共有関係と同一のものではないから、当事者の合意によって新たに設定された通常の共有として民法二四九条ないし第二六二条の適用によって律せられるものというべきである(同旨、大阪高裁昭和三八年五月二〇日決定家裁月報一五巻九号一九二頁)。
ところで本件においては、昭和五六年一一月二三日母貞が死亡したことにより更に同人を被相続人とする相続が開始したものであるところ、同人の遺産は本件建物の二分の一の持分のほか、その敷地である五六四番の一の土地、同番の五の土地及び五六二番の二の土地の各二分の一の持分ということになる。そうであれば、母貞の相続人である第一審原、被告及び平尾千代子は右遺産の分割協議をなすか、又は右協議が調わないときは家庭裁判所に対して同人を被相続人とする遺産分割の調停又は審判の申立をなすべき筋合である。もっとも本件建物、五六四番の一及び同番の五の土地の貞の二分の一の持分については右相続人らにつき右相続を原因とする所有権移転登記が経由され、五六二番の二の土地については右相続人らにつき昭和四二年八月五日相続を原因とする所有権移転登記が経由されているが、これらが右相続人間の協議によってなされたことを認めるに足りる証拠はなく、遺産分割までの暫定的な相続による共有関係を表示するにすぎないものと認められるから、これが遺産分割につき支障となるものではない(なお、右五六二番の二の土地の相続登記は前記遺産分割の調停条項に反する不実の登記と推認される)。また、右五六四番の一、五の各土地の第一審被告及び平尾千代子の持分、五六二番の二の土地の平尾千代子の持分についてはその後第三者に譲渡されているが、右第三者の持分との関係で民法二五八条に基づく共有物分割訴訟がなされることはともかく、右第三者の持分を除くその余の持分について相続人間で遺産分割の対象とすることになんらの支障はないし、むしろこれを右対象とすべきものと解される(同旨、最判昭和五〇年一一月七日民集二九巻一〇号一五二五頁)。
4 そこで、本件建物に対する本件共有物分割請求の適否について検討するに、本件建物の持分二分の一は母貞の遺産であるところ、右につきなされた前記相続登記及び平尾千代子の六分の一の持分についての第一審原告への贈与及びこれに基づく移転の仮登記はいずれも遺産分割の協議によってなされたものでないことが明らかである。したがって母貞の遺産である本件建物の持分二分の一については他の遺産と共にこれが遺産分割の対象とされるべきであるから、これを民法二五八条に基づく共有物分割訴訟においてその分割を求めることは許されず、したがって第一審原告の本訴請求のうち、右持分の分割を求める部分は不適法として却下を免れない。
しかしながら、本件建物、五六二番の二、五六四番の一、五の各土地の他の二分の一の持分については、第一審原告が前記遺産分割の調停によってこれを取得しているものであるから、右持分の取得に関する限り第一審原告は第三者と同一の立場にあるものというべく、その分割に当たっては共有物分割訴訟によることができることは前記3に判示のとおりである。そうであれば、他の相続人である第一審被告を被告としてなした本訴請求は、本件建物の二分の一の持分の分割を求める限度で適法であるから、以下、本案について検討することとする。
二本件共有物分割請求について
1 請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。
2 <証拠>によれば、次の各事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 本件建物は、木造平家建の主たる建物である居宅と木造スレート葺平家建の付属建物である物置から成っているところ、右物置は本件建物の敷地である五六四番の一の土地の北及び西側に隣接する五六四番の四の土地上にあり、右五六四番の四の土地は、昭和四八年九月一三日裁判上の和解により第一審被告から大阪エアゾール工業株式会社に所有権が移転し、翌四九年三月一八日所有権移転登記が経由された。そして、右和解において、第一審原、被告及び平尾千代子は右会社に対し、右物置を昭和四八年一二月末日までに撤去することを約し、その撤去期限も既に到来しているほか、右物置自体現在では殆ど独立した経済的価値又は効用はない。
(二) 本件建物は昭和二七年ころ亡父安住悦太郎が建築した建物であり、以来、亡父悦太郎、母貞及び第一審原告がこれに居住していたが、昭和六〇年四月ころ、第一審原告も本件建物から近くの娘夫婦のところに転居したため、現在は空家の状態であるが、建物自体は老朽化しており、相当の補修が必要である。
(三) 他方、第一審被告は、本件建物に居住したことは一度もなく、五六四番の一の土地上に本件建物の南側に隣接して存在する同人の妻安住幸子所有名義の木造二階建の建物に居住している。なお、五六二番の二及び五六四番の五の各土地は、五六四番の一及び同番の四の各土地から西方に南北に走る市道までの東西の私道として使用されている。
右各認定事実によれば、物置は全く独立した建物としての効用がないことが明らかであり、その位置関係からみてもこれのみを第一審被告に分割することは相当でないから、本件建物を第一審原告の主位的主張のように現物分割することは相当でなく、右主張は採用することができない。
3 次に、本件全証拠によっても、本件建物につき区分所有を認めることはできないから、結局、本件建物については現物分割をすることはできないことになる。
4 第一審原告は、本件分割の一方法として価額賠償による分割方法も、民法二五八条の現物分割の中に含まれこれが可能である旨予備的に主張するが、同条は右分割方法として現物分割と競売による代金分割のいずれかしか認めておらず、右現物分割の中に価額賠償による方法を含むものと解することは文理解釈の範囲を超えるのみならず、右分割は遺産分割の場合とその目的趣旨、及び方法を異にするものというべきであるから、右主張も採用することができない。
5 以上2ないし4の諸点を考察すれば、当裁判所は、民法二五八条二項に基づき本件建物の競売を命じ、その売得金のうちから、第一審原告の共有者として確定的に有する二分の一相当分を第一審原告に交付するのが相当であると認める(なお、付言するに、右売得金のうち残り二分の一相当分については、貞の遺産して、第一審原、被告間で協議によりこれを分割するか、右協議が成立しないときは、家庭裁判所の調停又は審判によってこれが分割されるべき筋合である)。
第一審被告は、右分割方法は、第一審原告が申立てていない方法であるから民訴法一八六条の申立てざる事項に当たり違法である旨主張するが、本訴は本来非訟事件の性質を有し、裁判所は当事者の主張に拘束されることなく民法二五八条二項の条項に従い、その分割方法を選択することができるものであるから、右のように代金分割の方法を選択したことはなんら違法ではなく、右主張は採用することができない。
三結語
してみれば、第一審原告の本訴請求は、本件建物の競売を命じ、その売得金から競売費用を控除した金額の二分の一相当分の交付を求める限度で理由があるからこれを認容し、右売得金から競売費用を控除した金額の残り二分の一相当分の分割を求める部分は不適法であるからこれを却下すべきところ、これと異なる原判決は不当であるからこれを取り消し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大和勇美 裁判官久末洋三 裁判官稲田龍樹)
別紙物件目録
大阪府箕面市半町四丁目五六四番地
家屋番号 三五一番
種類 居宅
構造 木造スレート葺平家建
床面積 53.38m2
(付属建物)
種類 物置
構造 木造スレート葺平家建
床面積 12.39m2